2010年11月6日土曜日

Eid-ul Azha期間中のクリミア・コンゴ出血熱への注意について

1.10月15日、パキスタン保健省はWHOに対し、今年に入りこれまでに26例のクリミア・コンゴ出血熱の感染例(うち3例死亡)を確認した旨報告しています。
WHOの資料及び報道によれば、患者はイスラマバード、ラワルピンディ、アボタバード、クエッタ、カラチなどの大都市の病院に入院しており、患者の多くはこれら大都市から離れた地方都市で感染し重症化したため、大都市の病院に搬送されたものと推測されています。

2.クリミア・コンゴ出血熱は、ウイルス性の出血熱で、自然界ではウシ、ヒツジ、ヤギなどで感染サイクルが形成されており、マダニがこれらを刺すことにより伝搬していきます。これらの動物では感染しても症状はでませんが、ウイルスを持ったマダニにヒトが刺された場合、2~9日間の潜伏期間ののち、突然の高熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、関節痛、腹痛、嘔吐がみられ、重症化すると全身の出血(鼻出血、気道出血、口腔出血、消化管出血、皮下出血など)をきたすことがあります。ただし、ウイルスに感染しても発症率は20%程度と推定されており、さらに死亡率は15~40%(より高いとする報道もあります)とされています。
感染経路は以下のとおりです。
(1) ウイルスを持ったマダニに刺されたりこれをつぶしたりする。
(2) 感染した動物の血液や組織と接触して感染する。
(3) 感染者の血液や血液を混ずる体液や排泄物に接触する。
つまり、流行地の羊飼い、野営者、農業従事者、獣医師等、家畜およびダニと接触する人や、医療従事者が感染リスクが高いと考えられます。
パキスタンでは、過去にも感染患者を担当した医師が感染し死亡した事例があります。生きた家畜と接触したり、牧場に行ったり、病院で感染患者に濃厚に接触しない限り、感染のリスクはほとんどないと言えます(空気感染は否定されています)。

3.クリミア・コンゴ出血熱は、南アジア、中央アジア、中近東、アフリカに広く分布しており、パキスタンでは1976年以来、約300例が報告されています。パキスタン国内では、毎年、FATA、ハイバル・パクトゥンハー州、シンド州などで報告が確認されており、2000年以降は報告数が急増しているとされています。

4.ついては、都市部での日常生活では感染リスクはほとんどないと考えられますが、11月17日、18日に予定されているEid-ul Azha期間中には、多くの家畜が都市部に持ち込まれ屠殺が行われるため、クリミア・コンゴ出血熱への感染リスクが高まると懸念されるので、以下の諸点につき十分注意してください。
 なお、万が一、上記2.のような症状があり、感染が疑われるような場合には、お早めに信頼のおける医療機関、もしくは当館医務官等にご相談いただくようお願いいたします。

(1)家畜や牧畜業者との接触、農場や牧場でのキャンプやピクニックを避ける。
(2)鼻血が止まらないなど、出血傾向と考えられる症状のある人には近づかない。
(3)医療機関へ行く場合には、なるべく他の患者や入院病棟、血液の付着している可能性の
ある廃棄物などには近づかない。
(4)野生動物にはむやみに手を出さない。

 特に、Eid-ul Azha期間中には、

(1) 家畜屠殺には立ち会わない。立ち会わざるを得ない場合には、虫よけ対策をとり家畜に
付着しているダニには決して触れたりつぶしたりしない。
(2) 自分では家畜の屠殺・解体はしない。やむなく自身で屠殺・解体する場合にはゴム手袋にゴーグルをし、家畜の血液や体液が体に付着しないようにする。屠殺・解体を見学する場合にも家畜の血液や体液が付着しないように充分な距離をとる。屠殺の終わった後も、屠殺の行われた場所には近づかない。
(3) 屠殺された新鮮な家畜の肉には感染性があるため、触れないようにする。やむなくこれを調理する場合には、ゴム手袋をするなど生肉に直接触れないように心がけ、調理ではよく火を通す。(ウイルスは屠殺後数時間で失活し感染性を失いますので、衛生的な精肉店の店頭の肉は安全と考えられます。)(4) 生乳は飲まない。